***隠れみの。***
放課後、進路指導室


…何かやらかしたっけ、私。


隠れみの。



髪は…染めてても怒られないし
耳は…開けてても怒られないし
勿論、進路が決まっていないわけでもない。


私には進路指導室に呼び出される理由がなかった


「失礼しま…え?」


そこには見覚えのある人物がソファに座って
私立学校一覧が記載されている本をつまらなさそうに読んでいる
いや、進路指導室と関連しているようには…

「あ、出席日数足りないとか」
本を閉じて入り口の前に立つ私に目線を向ける

「イタイとこつくばいね…」

「違うの?」

この部屋には横に長いソファが一つしかない
…突っ立っているままも落ち着かないので
とりあえず隣に座った

「さぁ…理由まだ聞かされてなくて」
「そうなんだ。私も…何故か呼ばれたんだけど」

ガヤガヤと騒がしい外の音が
ウソのように遠く、遠くに聞こえて

この密室の中だけは別の空間のような気がして



隣にいるはずの
”彼”も近くて遠い
なんなんだろ、この距離感て。

―オーラの違い?


そんなこと考えながら
目を瞑ってソファに凭れる



…呼び出したくせに来るの遅いな。


その矢先
ふと唇に温もりが伝わった
どうしてか食べてもいないブルーベリー系な味までする


思わず目を開けて回りを見まわす

何だ、何があったんだ今!?



相変わらず本をパラパラと見ている人が一人
あれ、ガム…食べてるよね?


その他何も変わったところはない




…頭の中は疑問だらけ




「どげんしたと?」

目を合わせない会話

「べ、別に…何でも。」


タイミングが良いのか悪いのか、やっと先生が現れた


「遅いオサムちゃん!」
「スマンスマン、タバコ買いに行っとって」
「で、何の用事?」

「実はな」


と、話しを切り出すと真剣な面持ちで説明は始まった

その内容は
1年生に告白されたと言う
何とも大胆な恋の話だった

「告白された女子って、オサムちゃん日常茶飯事じゃん」
この先生は適当なくせに女子には人気がある
重要なトコだけはちゃんと見てる、とか
他の先生より若い分取っ付きやすい、とか

そう言う部分がどうもキュンと来るらしい。

「ちゃうねん、今回に至っては特殊と言うか…」
「ばってん…何で俺とに?」
「二人、付き合うてるやろ」

その一言はかなり直球に来た

「ななな何で」
「…どもり過ぎ、で?」

言われると弱い私に対し
かなり落ち着いている様子の千里

「けど、そのこと隠しとるやんか」


この人を見くびっていたのかもしれない。

と、言うのも
私の隠蔽工作は完璧だと思っていたし
普段だって学校では苗字呼びする位で
あまり二人で話すこともないし。

だから落ち着き過ぎている隣の人が不思議で仕方がない

「せやから告白されたら何て返しとるんかなぁ思て」

「あぁ、そう言うことね」
平静を装おうと試みる物の完璧に声が裏返ってしまった

でも気になるな、普段絶対聞けないし

「俺はそんな…普通たい」
「本命の前で言うん、流石に恥ずかしいか?」
聞いておいて茶化すオサムちゃん。
そうだね、恥ずかしいに決まってる


しかしそんな言葉を全て掻き消して平然と答える


「スマンけどその気持ちには、応えられない」って。


「ストレートやけど、引き下がらへんやろー?」
「はは…まぁ一筋縄には行かんばいね、
そん時は忘れられん人が居るからって言ったりとか…」

上手いな。
気になる人、とか好きな人って言うと
誰?って聞かれる可能性があるだろうし

そう考えると
”忘れられない”って言っておけば
過去なのか現在なのか、色々感じ方も増えるだろうし

「…私もそう言おうかなぁ。」
ポツリと出た一言。
千里並に告白されはしないけど

「はぁ、参ったなぁ。
1年の子傷付けるのも辛いやんか」
「大丈夫だよ、せ…千歳みたいな言われ方したら
多少傷付いても立ち直れる気がする」

オサムちゃんは腕を組みながら少々考えた後
にんまりと笑いながらこちらを見た

「おーきに、少しずつやけど道見えて来た気ぃするわ!」
「それにしても進路指導室に呼ばれたから何事かと思ったよ」
「ここって普段あまり使われることないやろ?」
「?…まぁ、そうだね」

そう言うとあからさまにわざと机の上のペン立てを床に落とした


静かな部屋に数十本のペンが勢い良く音を立てて散乱する
「ちょっと、酔っ払ってんのおじさん?」
「お・・・おじさん言うな!!シラフやて!
…いやぁ落としてしもたわー。俺急ぐから拾っといてや!ほな♪」


「ほ、ほなって、オサムちゃん!?」


バタン

ドアが閉まる


「まさかオサムちゃんにバレとったとは」
「ビックリしたよ本当に…!」

渋々足元に落ちているペンを座ったまま拾いながら
何だったんだ一体、とこれまでのことを振り返ってみる

千里も黙々とペンを拾っている



丁度真ん中に落ちていたペンを拾おうとした瞬間
手が重なった

ラブコメとかで良くあるシーンだな、なんて思う

その後
”ゴメン”なんて言い合いながら照れ笑いしてキス…
って、何考えてるんだろう自分


「えーと、千歳さん…」

私の手が下にある為に
上の手が動かない限り
ペンを拾うことも、手を引っ込めることも出来ない


「学校では苗字呼び、か」
「いや、あの苗字じゃなくて手をね…」


「今だけ名前で呼んでくれたら退ける」


何を意図した頼みなんだ?
あまり深く考えず頼まれることにした

「じゃあ千里、手ぇ退けて」


一瞬間が空いた



「…やだ」





や…


やだって!?
やだとか普段言わないくせに!!



目の前には整い過ぎた綺麗な顔


私は無意識のうちに目を瞑っていた

ただ、何となく。










「いやー全く急に呼ばんで欲しいわー!」







「ん、まだ時間足りひんかった?」
「いや、足りなくな…って、何が!?別に!」


「足りなかった」
「せ、千里!」

何故そんなにも素直に答えちゃうの!?
ちょっと残念そうな顔とかしなくていいよ!?

「お、普段はやっぱ名前呼びなんやな♪」
「しまった…油断してた」

「よかよか。もうバレとる相手に対して隠そうと思わんし。
むしろバレとるんやなかかなって思っとったから」
「流石千歳〜、俺の眼力を見抜いてたとはなぁ」
「………まぁ」

「って、沈黙長ない!?何笑てんねん!」


ギャーギャーと騒ぐオサムちゃんを置き去りにし
そそくさと進路指導室を後にした。

思えば校内でこうやって並んで廊下歩くことって無かったな。


…なんて、ちょっとしんみりしてみたり。


、携帯貸して」
「携帯?うん…」


訳が分からないまま携帯を差し出すと
カタカタと打ち始める





「とりあえずまかなきゃ、じゃあまた。」
「え、ちょっと…!?」


「あ、千歳君走り始めたで!?」
「うそやん!バレとった!?」


遠ざかるダッシュ音


唖然としながら携帯を見つめる


そこには待ち合わせ場所が記されていた



裏の公園に、15分後





xxx
15分後




「打たさってた?」
嬉しそうな顔しながら千里がやってきた
「ばっちり。凄いね、見ないで打っちゃうんだもん」


まだまだ外は寒いけど


「やっと抱き締められた」


一刻も早く室内に入りたいとか思うけど


「…こんな日も良いかも」



END

>>>コメ。<<<
これでもかってくらい千歳の人気を全面的に押し出したネタ(…多分)
携帯のブラインドタッチは「気持ち悪い」って良く言われる(私が/聞いてません)
携帯苦手で戸惑ってる千歳も可愛いな(妄想



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