***grayness***
「光、初詣行…」
言いながら気付いた
『この会話は絶対短命だ』と言うことを。


grayness


「何て?」
「いや、何でもない」
バカだなぁ自分、行くわけ無いじゃん。
見るからに人混み嫌いそうなのに

お正月モードがすっかり終わって、
またいつもの平日に戻りつつある街並みを歩きながら会話を考える

初めから出ている答えを敢えて聞こうとは思わない

話を変えよう。

「去年の暮れは散々だったよ、大体何で私も慰め会に参加しないといけなかったわけ?」
「そない事言うたら俺も何で参加させられたんか疑問やわ」
「光は部長だからでしょ?マネなんて他にも居るのに」
「部長の女やからやろ、きっと。大統領かて夫人も来るやんか」
「また随分とスケールの大きな分かりやすい例えで・・・」

12月30日に開催された独り身を慰める会と称したオサムちゃん家での飲み会的な物は、
最終的に主催者が酔っ払ってわけ分かんなくなるという何とも残念なオチになったわけで


「今年受験生なのに…勉強だよ勉強!」
「今からやったところで変わらんやろ。それには高等部に進学なんやし」
「…でも学年末とかヤバかったら…さ」
「お前アホやろ」
「は」
頬を抓りながら話し掛ける

真顔で貶されるのにはだいぶ慣れたが、まだ若干凹む

「一年の集大成を今からどうおさらいすんねん、無理無理」
「でも三学期の範囲メインだし」
「教科によっては、な」
抓っていた右手を離すと、
ポケットに手を入れながらまた歩き始める

「いた!ちくしょう、ちゃっかり知ってるし」

「何?」
「いいえ〜?何も…」
ところで私は珍しく誘われたという余韻に浸り過ぎていて、
全く疑問に思っていなかったことが今更になって頭をよぎる
「あの…今更なんだけど、どこ行くの?」
「お前を売りに」

「…うそ!?」
「嘘」

…この人の嘘は時々本当になることがあるから油断出来ない

「ほ、本当に売らないでよ」

「何あからさまに距離置こうとしとんねん」
「船で送らないでよ」
「は?」

「ドラマとかであるじゃん、海外に売られるあれだよあれ」
「本当ドラマ好きやな、どこが楽しいんだか」

呆れ顔でを見ると首で横を指す

「横?」

指した先にあったのは地元で有名な神社だ

何でも、その神社の一番大きな木の枝に
カップルでおみくじを結ぶと幸せになれるとかなれないとか…
という噂は四天女子の間では良く話題にあがるネタの一つだ

「光…おみくじの噂知ってたの?」
「おみくじ?あぁ、縁結びがどうのって話やったら謙也さんがしつこい位話しとったけど」
「あれ、それで選んだんじゃなく?」
「いっちゃん近いから」
光は即答だった

「だ、だよね〜…」
泣きたい…。
期待した私がバカだった…!

「ちゅーか迷信やろ」
「良いもう!迷信でも良いの!!引くからね」
「最初からそのつもりやからそないしつこくせんでもえぇし」

「えっ?」
それは少し喜んでも良いのか否か。

無言が続きながら奥へと進んで行く


光はさっきの会話を考えていた

時々謙也さんが羨ましくなることがある

…かなり時々、一年に数えきれる位やけど

あの性格やったら正直に縁結びが気になっただとか、
おみくじで凶やったら凹むやんとかって言えるのにな…

俺の性格上、それは無理難題なわけで。


それより今は参拝に集中せな…何願おうかな

一年平和に過ぎますように…なんて、ありきたりな事くらいしか思いつかへん

「…、終わったけど」
「待って、あと三つ」
「三つ?たかが50円でどんだけ叶えて貰おうと思っとんねん」
「下手な鉄砲数打ち当たる!ちょっと黙ってて」

それって意味違うんじゃ…と、突っ込もうとしたが
注意されたので多少不機嫌になりつつも黙って待つ財前。

「お待たせ、バッチリ頼んだからおみくじ引こ!」
「まさか凶出ませんようにとかまで頼んでへんよな」
「………頼んでない」

「せやったらその間はなんやねん」
「良いから良いから、早く引こうよ」



おみくじを貰いながらは念を押した
「凶でも笑わないでよ」
「お前こそ」

「いや、光は大丈夫だよ。何か運強そうだし」
悪運とか…ん?それって褒め言葉だっけ
「どこから自信を得て話しとるんだか…」


気になるおみくじの結果はというと
「な、何だった?」
「人に物聞くときはまず自分から」

は吉を引いたらしく、喜ぶべきか残念がるべきかリアクションに困っていた

「吉って良いんだっけ?悪いんだっけ?」

「普通やろ。良かったやん、凶やなくて」
「良かったけど…」
大吉出ますようにって言えば良かったかな

いざ願いが叶うと欲が出てしまうもので、
それは人間の悪い部分だ

「あ、中吉?私より良いし」
「これはこれで中途半端やけど」

「交換しない?」
「何でやねん」
おみくじのトレードなんて聞いたこと無いし
「じゃあ結びます」

意気揚々と噂の木まで走っていく

「結ぶ時は二つくっつけて結ぶと良いんだって〜、
ほらほら!みんな二枚を合わせて結んでるでしょ?」

「こういう噂ってどこが発信源なんやろな」

一応会話を返しながら絵馬を見る財前。


「うわ、めっちゃ派手やなこの絵馬…」

そこにはカラフルな模様と共に

"イケメン全員ロックオン出来ますように★"

という文が。


「…」
名前見なくても分かるって珍しいな

「何?」

と、結び終えたが満足げに絵馬ゾーンへと近寄って来る
何も言わず腕を組みながら立ち尽くしている相手の目線の先を追う


「……小春先輩、高等部でも相変わらずイケイケだね」
「春から一緒やと思うと切なくなるわ」

「でもこんなに感情を素直に出せるのもちょっと羨ましいかも」
「せやな」
「珍しい、否定しないんだ。ウザイだけやし〜…とかって」
「俺は感情表現上手ないから」

「そうだね」
「そうって、フォローとか無いんか」

「事実だもん。あ、だけど…時々素直になる」

は何かを思い出したかのように話に付け加えた

「慰め会の帰りに言ってくれた一言とか嬉しかった」

「帰り?」
さり気なくアルコール入っとったしな…(※お酒は20歳からです)


「私がもし高等部でマネにならなくて、
クラスも違ったら自然消滅になりそうって言ったら、

それでも俺の気持ちは変わらへんから―って。

言ったんだよ!!例え酒の勢いだったとしても嬉しかった」


「そない熱弁せんでも覚えとるわ。それは本気やったから」

それだけ言うと、光は絵馬ゾーンを離れ神社とは逆の方向に歩き始めた


「…マジか」
そう呟いて後を追う

「あ、御守り買おうかな」





「光、これあげる!」









「やっぱ今年もアホやな」
手渡した御守りを見ながらぼそぼそと文句を言う
「また人のことアホって…!」

御守りを取り上げて文字を見る

"交通安全"

「あ」
間違った…!


「せめて免許取ってから渡してや」
「すいません」
ここからはもはや言葉責めだ

「今年こそまともになれますようにって頼まなかったん?」
「てっきりまともだと…」
「焦って買うから間違えんねん」
「お、おいて行かれると思って確認し忘れた」

「自分の分は?」
「夢が叶う御守りを…」
「せやったら、それとこれ交換」


光は持っていた御守りと、私が出した御守りを取り替えた

しかしその御守りは


「ご、合格祈願!?てかいつの間に?」
「受験気分に浸りたいんやろ」
突き放すような言い方でさらっと返される
「違う!私が言いたかったのはエスカレーター式でも勉強しとかなきゃってだけで!!」

「えっ、そういう意味やったん?」
「マジボケかよ!も〜…」
そう。絶対マジボケだと思ってたのに

「なんて、ホンマはと学校変わったらつまらんからって、保険掛けの意味やけど」


まずあり得ん話やけどな、と珍しく少し笑顔で付け加えて私と視線を合わせると
光はまたポーカーフェイスで前を向く

一瞬でも私の中では記憶に残り過ぎる出来事だ。


「それだけ好きなんだよね?」
「答えの出とる事いちいち確認すんなや」
強引に手を引っ張る
「照れ隠し」
「しばくで」
「千歳先輩に隠して貰えば?」
「…せやな」
悪乗りし過ぎた
繋いでいた手を骨が砕けたんじゃないかって位、思い切り握りしめられたのだった



「光のサディスト具合が和らぎますようにって頼むの忘れてた」
むしろそれを懇願するべきだった



END


>>>コメ。<<<
初詣というか、お参りというか…微妙な時期の話です(えっ)
光のドS具合はいくら頼んでも直らなさそうな気が無きにしも非ずです(笑)
慰め会に参加したい!



>>>モドル<<<
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