***空き缶***
開けないと分からない沢山の可能性を
堪能し尽くしたら捨ててしまう

使い捨て?


それって使い捨て?


空き缶



「…止めた」

書き途中の紙を丸めて
左手にシャープを持ったまま目の前でうとうとしている人物の頭に投げ付ける

その人物は何が起こったか分からずに一瞬驚いて目を覚ますと、
瞬きを数回してからこちらを見る

投げた犯人は頬杖をしながら黙っている

「何投げ…」


丸めた紙を広げるとそこには先ほどの文章が。

当然意味が分からない




、勉強は?問題解けたと?」
「…リサイクルについて文中の言葉を使って60字以内でまとめなさいって
問題が出て来たんだけど、どう頑張っても80字になるから」

「で、この詩を?」
「そう、その詩を」




あからさまに分かる作り笑いを無言で交わす





「…いた!」
軽くデコピンされる
…無理もない、勉強をサボって良く分からない詩を書いていたのだから


「要らん単語が残っとるから80字になるたい、
が作った文章から同じような意味をまとめたり、更に端折っていけば…」

「うわ凄い!収まった!」
「そぎゃん喜んどる場合じゃなかね、
そもそも収まらんかったら問題として成り立たんし」
「もう少しなんだよね」

「?」

「もしかしたら削った所が中間点貰えたら悔しいな…とか、
絶対使わない物なのにいつか使う時が来るんじゃないかって
結局捨てられなかったりとか」
は話を勉強から脱線させるのが得意らしい

「ばってん、いつかは捨てんと。片付かんやろうし」
「それが出来れば収納スペースにも空きが出来るんだけど…」

「確かには色々付け加えたがるばいね」
「う…やっぱり?」

「例えば…俺ん事好いとーと?」

「え?そ、そりゃあ好きに決まってるよ!好きじゃなかったら付き合ってなんて…」
「そこ!」
「へ…」
、いつも余計なこと言うたい。好いとるならそれだけ言えばよかやのに」
「そういえば…」


いつもどこかで自分の言葉に不安を感じている時がある

そのせいか、余計に補足を付けたがる


そんな悪い癖が国語にまで影響を及ぼしてしまったというわけだ


「自分自身を信じられん?」
「自信が無いのかも、考え方とかに」


また同じような要約の問題を見つけ、解き始めながら会話を続ける

「続けとって」
返す言葉が見つからなかったのか、
「う〜ん…」と困った顔をしながら台所へと向かう千里


私はまた問題集とにらめっこをする


どこを端折る?


何が大事??


似たような単語はまとめて、端的に―


同い年の家庭教師は台所で黙々と料理を作っている

…料理出来るとか結婚したら大助かりだよね〜。

「?」

何かの視線に気付き、目線を向ける


まずい、気付かれた


勉強勉強…



苦手な物を得意にするのはかなり難しかね…

慣れた手つきで野菜を切りながら考え込む

ばってん、打開策はどこかにあるはず






、そろそろ休まん?」
「うん」

あり合わせで作ったサラダと和風パスタを運びながら
いつもと変わらないトーンで話す


穏やかな声だな…

テーブルの上の勉強道具と消しカスを急いで片付けながらそんな事を考える

「いただきます、あなた」
新婚さん〜♪なんちゃって…

後半はかなりボリュームを下げて話す

「ははっ、どうぞ」


あれ、聞こえちゃったかな


「要約はどげんね?」
「さっきよりは良くなったような…」
「味濃かったかな」
「ううん、ちょうどいいよ。美味しい」

「端的になって来たばいね」
「え、なってた?」
「なっとるなっとる」


「ねぇ、千里って結婚願望とかある?」
「どげんしたと、急に」
「興味本位で」
「そうばいね、相手が居れば」

「良いなぁ素敵な旦那さん〜」
もうちょっと後に出会ってれば、奥さんになれてたのかもしれないのに

「やっぱ地元で可愛い奥さん見つけちゃうのかな〜」
「分からんな、そぎゃん先ん事なんて」


流石にと結婚出来れば良いのに』なんて、言うわけないか。
千里は軽薄に発言すること無いし…

でも心のどこかで期待している自分がいる


先に食べ終えた彼は
何事も無かったかのように要約文をチェックする

私達、合ってるのかな


分かりやすい対応

向こうからは必要最低限の質問しか来ないし、
こちらからの質問には的確に答えてくれる

無駄がないことは良いことだ。


けど、




ほんの少しだけ甘えたくなる



「ご馳走様でした。私、洗うね」
「よかよ、そんままで」
「勉強教えて貰ってゴチになっちゃってるんだしやるよ!」

ニコリと微笑んで一言お礼を述べると赤ペンを左手に持ち、採点を始めた



流水音だけが響く静かな空間


先に採点を終えた千里はその場で伸びをすると洗面所に向かった



食器を洗い終えた私はテーブルを軽く拭くとまた定位置に戻り問題集を開く

丁寧な字で直された要約文

「さっきよりは良くなってる…ん?」


そしてある異変に気付く

本文に鉛筆で見覚えのない丸印が数ヶ所付いているのだ

「幸、せ、に、で、き、て、る、か、な」


幸せに出来てるかな


「!」



私は問題集を投げ出すと、一目散に浴室のドアを開けて千里に抱き付いた

「わ、!?な、何ね?!」

焦りながら急いでタオルを手にする千歳。
はもろにシャワーがかかって見る見るうちに服の色のトーンが落ちて行く


と言うか、セクハラにも程がある


「幸せ、幸せだよ!」
…」


唇に貼り付いた髪を避けてそっと合わせる



「…何やっとるんやか」
目の前には全身服のまま濡れている彼女

かたや自分は何も着とらん状態で抱き締めとるし…

「あ、ごめん!私その…答えたくてつい…」

「早く着替えんと風邪引くばいね」
「分かってる!どうもお騒がせしました!!」


自分の姿が鏡に映って我に返る

…しまった、何やってるんだ



xxx



問.作者が思う『幸せ』を、20字以内でまとめなさい。


答.ありきたりな日常のちょっとした出来事


「…これっての答えなんじゃなかと?」
「バレたか」

、隣来んね」
呆れたように笑って千里は告げた
特に断る理由もない私は、黙ってそれに従う

「この答え嫌いじゃなかね」
肩を寄せてそっと言い捨てると、問題集をテーブルの上に置いた



END


>>>コメ。<<<
結婚したいなってネタです(笑)
要約文は苦手でした(聞いてませんけど



>>>モドル<<<
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