***覚めた生活***
確かめていたい 溺れていたい 何処にも行きたくない
そして冷めてゆく生活 本当の事は誰にも言えないよ
もうどうだっていい また君の声がした
本当にヤバイ 心が痛い もうバイバイ

覚めた生活


美味しい位置に居るのは知っていた


テニス部のマネージャーになって
早いもので二年目。

あれは一年の時、全国大会が終わった後だった


「良い所まで行ったんだけどねぇ」
「何様やねん、自分」
「白石部長がもうちょっと前に出てたら勝ってたかもしれないのに」

立海大附属に敗れてしまったうちの学校。
一年だった私は学校で待機状態だったわけで、
その話を一年の時から天才と呼ばれていた人物から
まさに表彰式直後に電話で教えて貰っていた。

「ま、これで一つ大きな大会が終わったわけや」
「そうだね、お疲れ様」
「ちゅーわけで、帰ったらお前に言いたい事があんねん。
明日の放課後、屋上な。」
「え?言いたい事って・・・ちょっと、光!?もしもーし!!」


強引過ぎる通話。
しかもその翌日の方がもっと強引だから笑える。


放課後、約束通り屋上に向かった私は
目の前に遅刻の常習犯が居る事に対して
天気が荒れるんじゃないかと心配してしまった

「お、おかえり」

自分の存在に気付いた相手は無言でこちらに歩み寄る
快晴の似合わない、可愛くない中学一年生。

・・・って、思われてるんだろうな。上級生の男子生徒からは。

「最初に言うとく。俺、自信の無い事に関しては絶対切り出さん性格やから」
「・・・お、おう(?)」
何を言われるんだ?
、前に好きな奴居らんか聞いたよな?」
「うん、言ったけど」
・・・『何で言わなあかんの』って返されてしまって何も言えなくなった。

「せやったら、もしそれがお前やって言うたら?」
「・・・私もって言う」
「分かった」

そう言って手を差し出す光

「な、何?」
「えぇから、手ぇ出し」

差し出した手を握ると力尽くで自分の元へ引っ張り
一言、耳元で呟く

「離れたい言うても絶対離さへんからな、分かった?」
「って言うか・・・分かんないって言っても分かったになるんでしょ」

思えばアイツは中1の頃から既にドSだったんだ
こんな告白の仕方、普通の中1じゃ絶対出来ない・・・と言うかしない

一体どこでこんな事覚えたんだろうか・・・


それから色々あって、学年が変わって。

しかし光の彼女になってしまった手前、
レギュラーの先輩も何故かやたら心配してくれたりして
どうやら他のマネージャーよりすっかり溶け込んでしまっていたらしい。
それは・・・当然、一部の同学年の女子や先輩方から良い印象は受けない
あ、二年になったから後輩からも・・・か。

所謂学校裏サイト的な物が存在するものならば、絶対標的にされてるだろうし
面白く思っていない人の前を通ったら不自然なヒソヒソ話が始まるし

面倒と言うか迷惑極まりない。



「と言うわけで、私達別れた方がお互い楽なんじゃないかな」


部活のないテスト前のある日。
二人しか居なくなってしまった教室で
軽いようで実は重い一言を告げる


はそれでえぇの?」

貸したノートを写しながら
いつもと変わらないテンションで話を続ける光

「何か疲れちゃったんだよね、私は普通の中学生で十分満足だし。
部活も辞めようと思ってる。」
「で?俺に対してはどう思っとるわけ」

「別に、普通・・・」
こ、恐い。
さっきより若干声が低くなった気がする

本当は好きなんだよ、めちゃめちゃ好きなんだけどね!!

好きなんて言ったら
『せやったら別れなくてもえぇやん』
とか言うでしょ、あなたの性格上!


「友達に格下げするわけや」

頬杖を突いて立ったまま話している私を見上げて確認する

「・・・えぇで、別れたいなら別れよか」

展開は至ってシンプル。

光は無表情でそう言うと、またノート写しを再開させた

そして私は何でか心臓がバクバクしている
他人(ひと)の目に疲れてるんでしょ?
これで良いんだ、間違って無い。
私が望んでる在り来りな中学生活が出来る

好きな人から離れてまでも・・・


良い事をしたはずなのに、心の中で葛藤している間に
どうやら光は用事を終えていたらしく
自分の勉強道具をカバンにしまうと、貸していたノートを返した

「ノートありがとうな」
「ど、どういたしまして」
「今の3年が引退したら、お前と一緒に仕切ろうと思っててんけど
・・・残念やわ」


それだけ言い残して一人教室を後にする


私の頭の中では暫くその言葉がループしていた


絶対、絶対に間違った事なんてしてない
最初は気にしてなかった、けど段々辛くなってきた。

一人じゃない、友達も居る

けど知らない人が光のことを知ってる、先輩方の事を知ってる
私はそんな人達の近くに居過ぎた。

だから悪口の的にされる


的から外れるにはその場から去れば良い。
簡単な事だ。


なのに



「っ・・・」


なのに涙が止まらない




力が抜けて床に跪きながら
誰も居ない教室で理由の分からない涙を流す自分



最良の答えを選んだ筈なのに、どうして?

もしかするとこれは嬉し涙?

・・・いや、嬉し涙にしては気持ちが虚し過ぎる



ブルルル・・・


うわ、着信?タイミング悪!誰だよ・・・!

必死に深呼吸を数回して横隔膜を落ち着かせようとする
・・・しかしこれだけ泣いてしまっている為、逆に酷くなってしまった

極力相手に泣いてることがバレないようにしないと・・・
「も・・・も、しもし」
あー・・・ダメだ。絶対話し方おかしい

、まだ教室に居る?」
「うん・・・居るけど」
「俺の机ん中に何か入ってへん?」
「机・・・」
とりあえずガサガサと机の中を探す

「あ、あったけど」
所謂携帯音楽プレイヤー的な物が机の奥に入っていた。

「せやったら校門前で待っとるから持って来てや」
「・・・誰も盗まないよ」
「そういう問題ちゃうねん、
そっちの要求聞いたんやからはよ持って来い」

「・・・」
・・・また一方的に切られた

この泣き顔で?持ってけと??
あぁ、覆面マスクがあれば良いのに

渋々校門へ向かう。

・・・ヤバい。また泣けてきた
もしや涙腺バグった?バグっちゃったの涙腺?


とにかく顔を見せずに渡せば良いんだ

「遅い」
「ごめん、はいどうぞ」

間違いない、今の私は靴で相手を確認し、その靴と会話している

「じゃ、また・・・明日」
マズい。悲しい時って何話してても涙が出て来るのって何でだろう

「助かったわ、じゃあ・・・」
「うっ!?」

安心させといて前髪鷲掴みって・・・女子にそれは酷くないですか

「酷い顔。瞼にワサビでも塗られたんか?」
「うん、そう!だから酷い顔なの。それじゃあ!!」
ここは乗り切ろう

「・・・手、離してくれない?」
「・・・」
「いたたたた!痛いー!」
だが、鷲掴みにしたままどこかへ連行される
「うっさいな、黙れ」

いやいや、自分何やってるのか分かってる!?
か弱い女子の髪引っ張って・・・!


学校の裏山に連れて来られると
かなり雑に座らされ、変に跡のついてしまった前髪を
鏡片手に手櫛で直す

横隔膜は相変わらず痙攣しているままだが、涙はすっかり止まった


「キス」
「・・・キス?」
「最後なんやから別れのキス位せんと、礼儀やろ」
そんな礼儀、聞いたことが無い
「はぁ・・・」
「俺達付き合ってどの位やったっけ」
「えーと・・・一年位かな」
「せやったら、俺が他の女と付き合えなかった期間も
一年っちゅーことになるやろ?」
「そうだね」
「じゃあ、その分も込みでして貰おか」

「え?」
・・・一年って事は12ヶ月だから・・・12回すれば良いって事?

「つまり、12回?」

そして確認する間も無く最後のやり取りが始まったわけで。

1・・・2・・・


心の中で必死に数をカウントする

・・・11、12、13・・・14?

「っす・・・過ぎた!過ぎてるって光!!」

急いで止めにかかった
ただでさえ泣き過ぎて呼吸がし難い状況なのに、
これ以上したら窒息死してしまう

しかも多いし

「過ぎてへんて」
「いや、数えてたから!今ので14回だよ?!」
「それやったら・・・あと351回やんか」
「は!?何その桁違いな数字は!!」

・・・待てよ?


351+14・・・



「嘘!?日付計算なの?!」
そんな果てしない数、有り得なさ過ぎて全くノーマークだった
「俺を振ったんや、それ位のペナルティあって当たり前やろ」
しれっと答えてまた続けようとする光

「待った!そんなに一気にしたら・・・絶対窒息死する」
「死んでくれた方がえぇわ」
「じ、冗談でしょ」
「屍になったら別れんでも済むやんか」
「強引な・・・」
冗談に聞こえないから恐い

「疲れとる気持ちと、別れる気持ち、
天秤にかけた時に重かったんが前者やったからこの結果なんやろ?」
「そ、そうだよ」
「せやったらその面は何やねん、本来喜ぶ事に対して何で泣く事が必要なんやろか。
全く理解出来へん」

確かに正論だ。
「何かを嫌いになる事は簡単や、
せやけど、逆に好きなモンを無理に嫌うのって大変やと思うけどな、俺は」

・・・そう、それも正論
「ま、人それぞれやからもう止めんけど。
はえぇんやろ?それで。」


「・・・」
良いわけない

本心に気付いた目は涙を流す事で私に教えてくれたのだろうか

私は天秤を無理やり傾かせていたの?


握り締めていた拳を開いて
黙って目の前の相手に抱き付いてみる

・・・内心離されるんじゃないかと思いながら


「はぁ・・・ホンマ面倒なヤツ」
光は抱き締めながら溜め息混じりに呟いた


「・・・間違った」
「せやな、最初から分かっとったわ。
噂の的になるっちゅーことは、羨ましがられとる証拠やろ。
そいつらには出来ん事、は遣って退けとるんやで。
もっと自信持ちや、俺の女なんやから」
「す、すいません」
「今度弱音吐いたら手ぇ出すからな」
「はい、闘います闘います」

「351回は分割で許したる」
「え、数えるの?」
「何なら今からやろか?」
「いや、今日はもう・・・良いです」



xxx
「・・・何笑っとんねん、人が話しとる時に」
「え、笑ってた?」

そして三年になった今、私達は部をまとめる位置に居る

オーダーの話し合いをしながらふとそんなネタを思い出していた
そう、今思えば有り得なさ過ぎる思い出だ。
「あの時、光が止めてくれなかったら絶対後悔してたと思う」
「は、何の話?」
「べっつにー、ちょっと前の話をね」


・・・

「・・・いやあの、どのタイミングで口合わせてるんですか、財前部長」
「351回目」

微かに笑いながら告げると、また資料に目を向けて黙り込む
「本当に数えてたの!?」
「アホか、確実にそれ以上しとるやろ」
「・・・」
それ以上、何も言い返せなかった





END


>>>コメ。<<<
偽りのタカと繋がる感じに・・・。マネの位置って大変そうだなぁと。
普段はドS!!しかし時に優しく!そんな光の話(どんなですか
冒頭文+タイトルはつばきの曲から。聞いてるとどことなくきゅんてなる:−)



>>>モドル<<<
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