***甘えたい症候群***
たまに、いつもと違う自分を演じてみたくなる事がある

甘えたい症候群


薬品の独特な匂い
いつ見ても慣れない人体模型

謎の水槽


六時間目の化学が延びて実験の片付けをさせられることになってしまった

何てついてないんだ

時間外手当出して欲しいくらいだ、とか意味のないことまで考えてしまう

「逃げない!」
「面倒や」

そしてもう一人

帰りたがる相手の襟を掴みながら無理矢理理科室まで来たわけだが…


「早く片付けたら早く帰れるんだから、さっさと済ませちゃおうよ」
「…」

そして諦めたかのように実験道具を片付け始める

は洗ったビーカーや試験管を丁寧に拭きながらふと思った


二人きりの実験室




そう思うとドキドキする








…なんてね


現実なんてこんなもんだ

各々作業して、片付ける

ただそれだけで

それ以下でも以上でもなくて


わざと試験管落としてドラマを作ろうかとか思ったけど
片付け面倒だし



は実験道具を元あった場所に戻しながら現実に向き合っていた



あぁ、何て可愛くない中学生なんだろう




金ちゃんは可愛いよなぁ、 一個しか違わないのにあんなに純粋で、素直で…


「ねぇ、光」


何も言わず、目線だけに向ける財前

「光から見た私って、どう映ってる?」
「どう…って」
「素直で優しくて可愛い彼女?」

「…」


長い長い間の後に鼻で笑いながらまた片付けに戻る財前


「ち、ちょっと!それが答え!?」



「真っ向から否定するわ、彼女以外な」
「じゃあ何だよ!良いとこなんて無いんじゃん」
財前の手が止まった



机を挟んでの前まで歩み寄り
一番近くにあった椅子に腰掛けながら一旦お前も座れ、と手を上下に振る


頬杖を突きながら尋ねる

「えぇとこ無かったら付き合うなんて言わんやろ、何やねん。
現実主義なお前が珍しく甘えとうなった…何てまさか言わんよな」

ズバリ聞かれたその質問に端的に答える

「まぁ…甘えたら光がどんな反応するかは気になるね」
「めっちゃ可愛がっとるのに、それでも不満やったなんて。ワガママや」
「…」

立場が逆転して
今度はが黙り込む


いつ?!誰が!!



頭の中で必死に返答の言葉を探してみる

が、見つからない


「File not found」


それだけ呟き、次の言葉を探す前に席を立ち後片付けを再開する


それを見て財前もまた元の位置へと戻る


また、先程と変わらない沈黙の中での作業―


「あ」

手が滑って教卓の下にスポイトを落としてしまった
ここでいう教卓とは先生が実験の手本を見せる時によく使う黒板前のあの机だ


屈もうとした瞬間、ふと足下にあったペットボトルが目の位置に来た


何だ?このペットボトル、黒くなってて良く見えないけど…まぁいいや
気にせず拾おうとしたその時だった


「それ、この前解剖したカエルが入っとるんやで」

と、同時に軽く背中を叩き前へ押し出す

「い…何!?無理無理!!」

急いで方向を変え押した犯人にしがみつく

驚いたが無理にペットボトルに近付くまいと抵抗した結果である


「ちゅーか…入るわけ無いやん」

ケラケラと笑いながら犯人は呟く

「と…とっさの事に冷静でいられなかっただけ!」

急いで離れて、今度こそ目的を果たす

「う、重…」

しゃがんでいるの背中に乗っかり、両腕を
彼女の顔の前で交差させながら優しい声で囁く


が甘える事に対して別に俺の反応は変わらんと思うけど、
もし度を超えたら」


と、まぁここまでは会話だけ聞いていたら優しい男子だ







「分かった、分かりました!度超さないよう努力するから!」


交差していた腕をやんわりと締めながら
の反応を確実に楽しんでいた


この子、サディスティック過ぎる

そしてが性格きついなぁと
少し財前の事をマイナスに思い始めていた時だった

「―なんて」






こんなにも飴と鞭の使い方が上手過ぎる中学生が居るだろうか


いや、いない。少なくとも私の知る限りでは。
離れた口元は微かに笑みを含んでいた

これは常習犯だ、絶対常習・・・

「片付け終わったか〜?」
「は、はいっ!!もうす…痛っ、舌噛んだ」
「何焦っとんねん」
「焦らない方がおかしいでしょ!?」
「何や何や、夫婦喧嘩か?」
「違うんです、今この生意気な二年生が―!」

我を失い欠けて何を言うか分かったもんじゃないの口を押さえる財前
その光景に不思議がる先生

「財前、何やらかしたん」
「いいえ、何も。真面目に片付けしとっただけですけど」
「まぁ、それやったら別にえぇんやけどな」

先生!甘過ぎるよ!!

完全に記憶から飛んでいたスポイトを元の位置に戻し、理科室を後にする

正直先生に本当の事を言いたかったのは山々だが…



口から手を離す時にどこからか恐ろしい声が聞こえて来た


…分かっとるよな?」


そんな問い掛けが―



無言の中、廊下を歩き玄関へと向かう


「あれ、金ちゃん。まだ残ってたの?」

下駄箱からちょうど靴を出していた金ちゃんに話し掛ける

「居残りやねん…めっちゃしんどかったわぁ…」

いつもは元気が有り余っている金ちゃんも
流石に嫌な事に対しては疲れている様子だった


「ちゃんと勉強せんからや」

冷たく会話に入る先輩約一名

「あぁーっ!光まで酷いやんかぁ!わい、白石にも同じ事言われたんやでー!!」
「いや、知らんし」
「金ちゃんなりに頑張ったんだからちょっとは褒めてあげなよ」
「わい好きやぁ!」
「嬉しいなぁ…よし、たこ焼き買ってあげる!」
「ホンマに!?」

「俺かて自分なりに片付け頑張ったんやけど」

悪ノリしながら財前が話を振った

「じゃあ…たこ焼き買ってあげようか?」

それに対し意地悪くが尋ねた

「…要らんわ」


「それやったら光の分貰ーた!!」
「あはは、得したね金ちゃん」

手を繋ぎながらたこ焼き屋へと向かう二人を見てふと思う



金ちゃんのキャラが得なんや、と。



END


>>>コメ。<<<
理科室って意味分かんない水槽とか謎のペットボトルがあったのって私の学校だけでしょうか(笑)
放課後の片付けほど損した気分になることなかったなぁって話です(マニアック!)
金ちゃんの性格は得なんだと勝手に思ってます(出た妄想)



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